リンデ歯周病学 抗生物質 歯周病

歯周治療における抗生物質1【リンデ歯周病学】

2020年8月30日

ポイント

歯周治療における抗生物質使用は「薬剤耐性菌」や「マイクロバイオームの攪乱」といった害があっても、使用する価値があるのでしょうか。
抗生物質使用について最近の教科書ではどのように考えてるのか確認します。

歯周治療における抗生物質使用を考えるために

抗生物質は両刃の剣

かつて、抗生物質はすべての感染症を治すことができると考えられたほど感染症治療に劇的な効果をあげました。
しかし、抗生物質の効かない耐性菌が次々と出現し、マイクロバイオームを攪乱して全身に悪影響を与えることが分かってきました。

抗生物質は感染症の治療になくてはならないものですが、それと同時に身体を害する薬ということを理解しなくてはいけないわけです。

リスクと利益を教科書ではそのように考えているか

したがって、歯周治療において抗生物質を使用する場合、そのリスクと得られる利益をよく考えて投与する必要があります。
歯周治療において抗生物質を使用して得られるメリットにはどのようなものがあるのかを理解できれば、歯周治療の抗生物質使用が必要なものなのかどうかはっきりしてくるはずです。

歯周治療における抗生物質使用のリスクと利益を理解するために、リンデ歯周病学(2015年)の「歯周治療における抗生物質」の章で、現状における歯周治療における抗生物質に関するコンセンサスを理解しておこうと思います。

歯周微生物に対するとらえ方

リンデ先生の歯周病学の第6版、第43章「歯周治療における抗生物質」では「歯周病に関連する細菌を排除するために抗生物質は有効である」という過去のリンデ歯周病学の流れを踏襲していますが、抗生物質のリスクに対する記述が多少多くなっているのではないかと思います。
この本の抗生物質関連の執筆者は第3版からこの第6版までA.Mombelli先生(スイス)が一貫して担当しているので、基本的な考え方に変化はないと思いますが、第6版ではD.Herrera先生(スペイン)が新たに執筆者として名を連ねています。

同じ第6版、第10章の「細菌学的歯周病因論」(M.Curtis先生(イギリス))では潰瘍性大腸炎やセリアック病などディスバイオシスが引き起こす全身疾患と同様、歯周病も口腔内のディスバイオシスによって引き起こされる、との立場をとっていますが、第43章の「歯周治療における抗生物質」では、特定の歯周微生物を抗生物質によって排除することが歯周病の治療であると表現されており、歯周微生物に対する考え方に微妙な食い違いをみせています。

リンデ-臨床歯周病学とインプラント

リンデ歯周病学の第6版、第43章「歯周治療における抗生物質」の抗生物質の全身投与に関連する部分の訳を「歯周治療における抗生物質1~4」に掲載したいと思います。
このページには「序論」を掲載します。

Clinical Periodontology and Implant Dentistry 第6版第43章“Antibiotics in Periodontal Therapy(歯周治療における抗生物質)”(p870~898)の目次

Introduction(序論)
Principles of antibiotic use in periodontics(歯周治療における抗生物質使用の原則)
・Is periodontitis an infection and should it be treated as one?(歯周炎は感染症なのですか?)
・Specific characteristics of the periodontal infection(歯周感染症の特定の特徴)
・Should antimicrobial therapy be aimed at specific pathogens?(抗菌療法は特定の病原体に向けられるべきですか?)
・Drug delivery routes
Systemic antibiotics(抗生物質の全身投与)
・Combination antimicrobial drug therapy
・Adverse reactions(副作用)
・Systemic antimicrobial therapy in clinical trials(臨床試験における全身抗菌療法)
・Timing of systemic antibiotic therapy(抗生物質全身投与のタイミング)
・Selection of patients who may benefit most from systemic antibiotics(抗生物質全身投与で恩恵を受ける患者の選択)
・Disease severity(疾患の重症度)
・Minimizing the risk of the development of antimicrobial antibiotic resistance(抗菌抗生物質耐性の発症リスクを最小限に抑える)
Local antimicrobial therapy
・Local antimicrobial therapy in clinical trials
・Minocycline ointment and microspheres
・Doxycycline hyclate in a biodegradable polymer
・Metronidazole gel
・Tetracycline in a non-resorable plastic co-polymer
・Azithromycin gel
・Cholorhexidine products
・Comparative evaluation of treatment methods
・Local antibiotics in clinical practice
Conclusion(結論)
 

序論 Introduction

メモ

歯周治療における抗生物質はその有用性が抗生物質の害を補って余りあるものでなければなりません。

抗生物質とは

抗生物質は宿主組織に比較的無害な濃度で細菌細胞の増殖を殺したり止めたりする薬で、それ故に細菌によって引き起こされた感染症を治療するために使用することができます。

この用語はもともと特定のグループの微生物によって生成された天然物質に適用され、化学合成された他の抗菌剤と区別されていました。

しかしながら、もともと微生物の産物として発見されたいくつかの抗菌化合物は、化学的手段によって完全に合成することができます。

したがって、医学および薬学において、細菌感染症の治療に使用される抗菌剤は現在、一般的に抗生物質と呼ばれ、文字通りその言葉を解釈しています。

抗生物質は、抗ウイルス剤、抗真菌剤、および駆虫剤も含む抗菌剤の1つのグループです。

Antibiotics are drugs that kill or stop the multiplication of bacterial cells at concentrations that are relatively harmless to host tissues, and therefore can be used to treat infections caused by bacteria. The term was originally applied to natural substances produced by certain groups of microorganisms, distinguishing them from other antimicrobial agents that are chemically synthesized. However, some antimicrobial compounds, originally discovered as products of microorganisms, can be synthesized entirely by chemical means. Therefore, in medicine and pharmaceutics, antimicrobial agents used in the treatment of bacterial infections are now generally referred to as antibiotics, interpreting the word literally. Antibiotics are just one group of antimicrobial agents, which also comprise antiviral,antifungal,and antiparasitic chemicals.

抗生物質は感染症の治療に革命をもたらした

薬物が感染部位に到達する能力、および標的細菌が薬剤に抵抗または不活性化する能力が治療の有効性を決定します。

抗生物質は宿主が許容する濃度での効果に基づいて「殺菌性」または「静菌性」に分類され、影響を受けやすい細菌の範囲に応じて、「狭スペクトル」または「広スペクトル」に分類されます。

1930年代後半から1940年代初頭にかけて、細菌に対して選択的に作用するスルホンアミド、ペニシリン、ストレプトマイシンなどの強力な薬剤の出現は、細菌感染症の治療に革命をもたらしました。

以前は生命を脅かした病気の治療におけるこれらの薬剤の卓越した成功は、細菌感染が再び主要な医学的関心事になることは二度とないと信じられるようになりました。

The capacity of the drug to reach the infected site and the ability of targeted bacteria to resist or deactivate the agent determine the effectiveness of therapy. Based on their effect at concentrations tolerated by the host, antibiotics can be categorized as ”bactericidal’’ or “bacteriostatic”, and,depending on the range of susceptible bacteria, “narrow-spectrum” or “wide-spectrum’’.

耐性菌、生体の平衡を乱す抗生物質

これらおよび何百もの追加開発された抗菌薬に関する70年の経験は、それらの成功にもかかわらず、この見解はあまりにも楽観的であることを示しました。
抗生物質の広範な使用から生じる新たな問題は、抗菌剤の能力に対する一般的な認識を修正しました。
多くの細菌は抗生物質に抵抗するか、または逃れるためのかなりの能力を持つようになっています。
抗生物質は体の微妙な生態学的平衡を乱し、非細菌性微生物や耐性株の増殖を可能にするかもしれないことが注目されています。
時にはこれは最初に治療されたものよりも悪い新しい感染症を引き起こす可能性があります。
抗菌剤には、毒性以外の望ましくない特性がある場合があり、それらも考慮する必要があります。

In the late 1930s and early 1940s the appearance of powerful agents selectively active against bacteria sulfonamides, Penicillin, and streptomycin-revolutionized the treatment of bacterial infections.The Out Standing success of these agents in the treatment of formerly life-threatening diseases led many to believe that bacterial infections would never again be a major medical concern. Seven decades of experience with these and hundreds of additionally deve1oped antimicrobial drugs have shown that, despite their success, this view was too optimistic. Emerging problems resulting from the widespread use of antibiotics have modified the general perception of the capabilities of antimicrobial agents. Many bacteria have developed a significant capacity to resist or repel antibiotic agents. It has been noted that antibiotics may disturb the delicate ecologic equilibrium of the body, allowing the proliferation of non-bacterial microorganisms and resistant strains. Sometimes this may initiate new infections that are worse than the ones originally treated. Antimicrobial agents may have other unwanted properties, such as toxicity, that need to be considered as well.

リスクと利益のバランスを考える

この章の目的は、歯周治療における全身的および局所的に適用される抗菌剤の有用性について議論することです。
機械的治療の限界を考えると、抗菌剤の使用は治療効果を高めるかもしれません。
潜在的な利益は、望ましくない影響のリスクとバランスが取れていなければなりません。

 The purpose of this chapter is to discuss the utility of systemic and locally applied antimicrobials in periodontal therapy. Given the limitations of mechanical treatment,the use antibacterial agents may enhance the effect of therapy. Potential benefits must be balanced against the risks of unwanted effects.


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小西昭彦
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