Arek SochaによるPixabayからの画像

マイクロバイオーム

ディスバイオシス

2020年8月1日

ディスバイオシスが細菌学的病因論のキーワード

『臨床歯周病学とインプラント』第6版では、それまでのリンデ先生の本には見られなかったディスバイオシスという単語がさかんに使われています。
そして、このディスバイオシスが、細菌学的病因論のキーワードになっています。

リンデ歯周病学でのディスバイオシスの定義は『微生物の不均衡が体内または体表にある状態』というものです。

この定義は『腸内細菌と免疫細胞の恒常性の調節(Hill & Artis 2010)』という論文からの引用ですが、この論文はディスバイオシスについて論じたものではなく、ディスバイオシスについては最後にメモ書き程度に記してあるだけです。

 

マイクロバイオームの攪乱

「歯周病の新常識」を書き始めたころは、リンデ先生の本に書いてあるディスバイオシスというのは、マーティン・ブレイザー先生の『失われてゆく我々の内なる細菌』に書かれている『マイクロバイオームの攪乱』と同じことだろうと考えていました。

マイクロバイオームというのはマイクロバイオータ(常在微生物群)のゲノム集合体とのことで、細菌と生体が互恵的に織りなす消化吸収や免疫や病気への抵抗性など我々の健康に欠かせないものです。

したがって、それが乱されれば生体に問題を引き起こすのは当然と言えば当然です。
ブレイザー先生の本ではそのことを「マイクロバイオームの攪乱」と表現しています。

その「マイクロバイオームの攪乱」と「ディスバイオシス」を同じものと考えていたわけです。

しかし、リンデ先生のディスバイオシスは微生物の不均衡ということで、マイクロバイオームの乱れとは若干意味が違うような気がしていました。

「ディスバイオシス」は細菌の数や種類を問題にした考え方で、「マイクロバイオームの攪乱」というのは細菌の種類ではなくて、細菌の遺伝子が担う働きに焦点を当てた考え方のように思えます。

私の勉強不足が招いただけの疑問だと思いますが、このあたりの理解が歯周病の病因論にも関係してくるのではないかと思います。

順次整理していきたいと考えていますが、お気づきの点がありましたらご教授願えれば幸いです。

 

ディスバイオシス(dysbiosis)

私がマイクロバイオームに興味をもつきっかけとなったマーティン・ブレイザーの『失われてゆく我々の内なる細菌』にはディスバイオシスという用語は登場しません。
ネットを中心に調べてみても、ディスバイオシスということに対する解釈にもバラつきがあるように感じます。

ディスバイオシスに関する解釈の代表的なものを以下に取り上げます。

 

腸内細菌と免疫細胞の恒常性の調節
Hill DA, Artis D :Intestinal bacteria and the regulation of immune cell homeostasis ,Annu Rev Immunol . 2010;28:623-67.

リンデ歯周病学で引用されている文献、Intestinal bacteria and the regulation of immune cell homeostasis(腸内細菌と免疫細胞の恒常性の調節)では、論文の最後に次の一文がつけ加えられているだけです。

Dysbiosis: the condition of having microbial imbalances on or within the body.

ディスバイオシス:微生物の不均衡が体内または体内にある状態。

dysbiosis
バイオキーワード集、実験医学online:羊土社


ヒトは腸内細菌叢と共生している。腸内細菌叢は宿主であるヒトの栄養代謝、防御機構、免疫機構の発達に大きく寄与している。ヒトの腸内細菌叢の異常はディスバイオシス(dysbiosis)と呼ばれ、炎症性腸疾患や過敏性腸症候群、メタボリック症候群、喘息、心血管疾患など種々の疾患との関連性が示唆されている。

ここではディスバイオシスを腸内細菌叢の異常としています。しかし、腸内細菌叢(マイクロバイオータ)はその構成も種類も一人ひとり違っており、正常な腸内細菌叢(マイクロバイオータ)と異常なそれを線引きするのはかなり難しいのではないかと思いますが・・・。

 

腸内細菌叢とdysbiosis
馬場 重樹, 佐々木 雅也, 安藤 朗、日本静脈経腸栄養学会雑誌、33 巻 (2018) 5 号

ヒトは腸内細菌叢と共生している。腸内細菌叢は宿主であるヒトの栄養代謝、防御機構、免疫機構の発達に大きく寄与している。ヒトの腸内細菌叢の異常はdysbiosisと呼ばれ、炎症性腸疾患や過敏性腸症候群、メタボリック症候群、喘息、心血管疾患など種々の疾患との関連性が示唆されている。また、dysbiosisの原因として、抗菌薬やプロトンポンプ阻害薬などの薬剤だけでなく、欧米型の食事、環境因子など種々の要因が考えられている。

ここでも腸内細菌叢の異常と説明されていますが、何が「異常」なのかを示すのは難しいのではないかと思います。


歯周病の新常識
小西昭彦
阿部出版
歯科治療の新常識
小西昭彦
阿部出版

小西歯科医院のホームページ

 

-マイクロバイオーム

© 2024 こに試論 Powered by AFFINGER5